2025年6月14日(土)、15日(日)、マカロニえんぴつが横浜スタジアムにて『still al dente in YOKOHAMA STADIUM』を開催した。
2015年に初の全国流通盤『アルデンテ』をリリースし、今年でデビュー10周年を迎えたマカロニえんぴつ。アニバーサリーイヤーとなる今年は、様々なライヴやリリースが予定されているのだが、その第1弾として発表されたのが、バンド結成の地である神奈川県・横浜スタジアムでの2daysライヴ『still al dente in YOKOHAMA STADIUM』だった。マカロニえんぴつ史上最大規模のワンマンライヴとなった本公演は、初日はインディーズ時期の楽曲、2日目はメジャー時期の楽曲にスポットを当てて、バンドの歴史を振り返るというもの。開催するにあたって、「10年やってきて、味方が増えて、もしかしたらこの人たちをいっぺんに目の前にして演奏できる会場にそろそろチャレンジしてもいいんじゃないかと思った」とMCではっとりが話しており、本人達的には「勝負ではあった」そうなのだが、2日間で55,000人のマカロッカー(ファン)が集結。最高の音楽と愛に溢れる祝宴となった。このレポートでは、2日目の模様をお届けする。
Text 山口哲生
Photo 後藤壮太郎、酒井ダイスケ
開演前、巨大なLEDビジョンには、ミュージシャン、俳優、芸人など、マカロニえんぴつと縁の深い錚々たる面々からのお祝いコメント映像が流されている。また、場内アナウンスが「試合開始に先駆けまして〜」と、野球場という場所に合わせた形になっていて、マカロッカーの高揚感をじわじわと上げていた。ステージセットも大迫力。巨大なLEDビジョンはもちろん、横浜スタジアムの照明塔を模した逆三角形の照明や、川崎の工業地帯を思わせる煙突やパイプが並んでいて、時折煙突から白い煙が立ち上がる。なお、開催数日前に関東地方が梅雨入りしたこともあり、初日の天気はあいにくの雨(この日のMCで、「それはそれで一生忘れない思い出のライヴになった」とはっとりが話し、感謝を伝えていた)。2日目は、気温こそ高かったものの晴天に恵まれ、陽が少し傾き始めた横浜スタジアムには、心地よい風が吹き始めた。
いよいよ開演。「これまでの活動の中で出会えたマカロッカーと共に……プレイボール!」とウグイス嬢が告げると、ホーン隊のファンファーレに合わせてマカロニえんぴつの旗が掲揚され、客席から大きな拍手が送られる。すると、客席左側からはっとりと田辺由明、客席右側からは高野賢也、長谷川大喜とサポートドラムの高浦“suzzy”充孝が、リリーフカーに乗って登場。「PRAY.」や「忘レナ唄」など、野球にまつわる彼らの楽曲をホーン隊が演奏する中、座って笑顔で客席に手を振る田辺、高野、長谷川の3人と、立ち上がって客席を指さしたり、投げキッスをしたり、ポーズを決めたりと、興奮を煽るはっとり。もちろん客席からは大歓声が送られる。
2台のリリーフカーがゆっくりとグラウンドを回った後、お馴染みのSE(The Beatles「Hey Bulldog」)が流れ始め、メンバーがステージイン。全員定位置につくと、はっとりの「ハマスター!」という叫び声をきっかけに、ライヴは「トリコになれ」から始まった。力強いバンドサウンドをホーン隊が華々しく彩ると、続く「鳴らせ」では清涼感のあるアンサンブルを走らせていく。田辺も高野も前に出てきて客席を見渡しながらプレイすれば、長谷川はクラップを煽る。そんな熱狂渦巻く場内の模様をドローンがスピード感たっぷりに切り取った映像をLEDビジョンに映し出し、さらに興奮を高めていく。「レモンパイ」では、はっとりが客席の声を求めるように歌うと、それに応えるマカロッカー達。「めっちゃいいじゃん。調子いいね!」と、笑みを浮かべるはっとり。甘酸っぱくて、それでいてハッピーなサウンドから、打って変わってサイケデリックな音が放たれ、「洗濯機と君とラヂオ」に突入。曲中ではっとりが「準備できてるか!? どうぞ!」とマカロッカーの大合唱を促す。後のMCではっとりが「遠慮せず歌ってちょうだい」と話していたが、促す前にもうすでに歌っているマカロッカーが多数で、全員がこの瞬間を心の底から楽しんでいた。
ホーン隊が一旦ステージから離れると、はっとりが「この景色は2日目でも慣れないね」と、会場に集まったマカロッカーに感謝を伝える。「今日はお祝いの日ということで、みなさん大いにはしゃいでください。俺たちを祝ってくれ! あと暑いから水分補給もまめにね! 愛のミュージックをたくさんやります。最後まで楽しんで!」。少しだけ茜色に染まり始めた空に、柔らかな「MUSIC」が響いていくと、高野がイントロで奏でるベースに反応し、すぐさまマカロッカー達が歌い始めた「たましいの居場所」では、逆三角形の照明が虹色に輝いた。そこからも「恋人ごっこ」「ブルーベリー・ナイツ」と、人気曲の連打に喜びの声が上がり続け、長谷川が優しいタッチで鍵盤を奏でて始まったのは、「なんでもないよ、」だ。サビに入るとマイクを客席へ向けるはっとり。それに応えて大合唱が巻き起こる。「素晴らしい、上手!」と、はっとりが客席を讃えると、その言葉にまた客席からは大きな歓声が上がる。そんな美しいやり取りがこの日何度も行なわれていた。
「リンジュー・ラヴ」や「青春と一瞬」など、EDM系のリミックスが施された楽曲が流れる中、場内のLEDビジョンには、4人の写真や音源のジャケット写真などが大量に並べられた映像が流れ始める。しばらくすると、アリーナエリア中央に設置された円形のセンターステージに5人が登場。センターステージでは、この日のコンセプトでもある“メジャー時期”にスポットを当てた楽曲が届けられた。1曲目は「ハッピーエンドへの期待は」。4人がアカペラで紡ぐ美しいハーモニーから幕を開け、大胆かつダイナミックな曲展開で突き進んでいくマカロニえんぴつらしいナンバーを堂々と響かせる。「人気曲のアンケートを取ったら上位だった」という長谷川作曲の「ルート16」に入る前、「このステージ、1曲ずつ回転します!」とはっとりが告げると、ステージが逆時計回りで90度回転し、マカロッカーから驚きと歓喜の声があがっていた。そこから続けて「はしりがき」「mother」を披露。曲がアウトロに差し掛かるごとにステージが回転し、再び最初の位置に戻ってくると、はっとりが「ちゃんと水飲んでる?」と、客席を気遣いながら話し始めた。
はっとり「ロックバンドは本当に楽しいです。やっていると、みんながいろんなところへ連れて行ってくれるし、みんながいろんな景色を見せてくれるから。ただ、それは誠実にやっている場合のみだと思います。我々は本当にロックが好きで、ロックに憧れていて、そしてまだロックが遠くて。でも、いつも隣りにいて……という、すごい幸せな時間の中で、日々音楽をやっています。だからロックに感謝を込めたり、音楽に出会った自分、音楽を信じた自分を讃えながら歌います」
そんな宣言から始まったのは、「僕らは夢の中」だ。バンド結成10周年のタイミングで発表されたこの曲は、メンバーそれぞれが自身の歌うパートを作詞し、代わる代わるメインヴォーカルを務めるという形が取られていて、はっとり、長谷川、高野、田辺の順で、各々の言葉をメロディに乗せて届けていく。ロックバンドとして歩み始めてから、いろいろ変わったものはあるけれど、変わっていないものもあれば、譲れないものもあるし、深まったものもある。すっかり陽の暮れた横浜スタジアムで、豪快に、真摯に、喜びを噛み締めながら演奏する4人を、まばゆいまでの白い光が照らし出していた。
メンバーがメインステージに戻るまでの間は、ハーフタイムショーが行なわれた。横浜DeNAベイスターズ・スタジアムMCの山田みきとし、横浜DeNAベイスターズ・オフィシャルパフォーマンスチームのdiana、マカロニえんぴつのマスコットキャラクター・まかぴー君と、その彼女・まか子が先導する中、「哀しみロック」をスタジアム全員で踊り、ハッピーな空間を作り上げていく。
メインステージにメンバーとホーン隊が再び登場すると、「前世よ、しっかり」で後半戦がスタート。ライヴはここから一気に加速していく。赤いライトに包まれる中、ガイコツマイクを手にしたはっとりがシャウト混じりに歌を放つと、「そんなもんかハマスタ!」と煽ってなだれ込んだのは「ハートロッカー」。バンド全体が一塊になって凄まじいスピードで突き進んでいく中、マカロッカーたちも振り落とされないように大合唱を巻き起こす。ブラス隊を見送った後、「ロックは無茶をすることじゃないのか!? 3万人で無茶しようぜ!」と「ワンドリンク別」を強烈なテンションで叩きつけ、「愛の波」のイントロでは音玉が爆発。カラフルなレーザービームが大量に飛び交った「STAY with ME」で横浜スタジアムを踊らせた後、間髪開けずにサポートドラムの高浦が躍動的なビートを叩き始める。田辺がド派手にギターをかき鳴らし、はっとりのカウントから「星が泳ぐ」へ。熱のこもった重厚なグルーヴで音を転がしていくと、最後の〈バイバイ〉という歌詞を歌い終えてアウトロに入った瞬間、大量の花火が打ち上げられ、夜空を美しく彩った。そんなクライマックスの空気を更新していくように、横浜スタジアムの全照明が灯される中で、「ミスター・ブルースカイ」を高鳴らす。「“ありがとうね”って言われるためにやってたはずなんだけど、今日に関しては、俺たちが精一杯のありがとうを送らないと示しがつかない」と、この日何度目かの感謝を告げ、はっとりが客席に話しかける。
はっとり「若さって素晴らしいとか、抗っていくことがかっこいいってことを伝えたくて、こういうワンマンライヴを開催したわけじゃない。お互いすり減ったねってことを、顔を合わせて、なんとなく確認したかった。生きてるってことはすり減るってことだ。同じ若さのまま、これからも一緒に歳を取りたいと強く思いました。あなたが見つけた、あなたが一緒に歩くと決めた、マカロニえんぴつという音楽でした」
そんな話の後に届けられたのは、「ヤングアダルト」だった。繊細で、瑞々しく、それでいて力強い音が響き渡る。歌詞の〈世田谷ヤングルーザー〉を“横浜ヤングルーザー”に変え、「歌ってくれ!」と、はっとりが客席にサビを任せると、この日最大級の大合唱が巻き起こる。自分が愛しているアーティストの曲であればどれもそうだとは思うのだが、この曲も間違いなく、マカロニえんぴつを愛するすべての人たちの中で、時を重ねていくにつれて、今以上にかけがえのない曲になっていくことを深く感じさせられた。
そんな人生のプレイリストに加わりそうな曲が、また1曲。それが、初日(6月14日)のステージでサプライズ披露され、2日目(6月15日)の午前0時から配信がスタート、この日のラストナンバーとして演奏された新曲「静かな海」だ。この曲は「眠れない夜、頭の中でずっとこの歌が流れていて、鳴っていた通りに録音して、歌詞を書いたら一晩でできた」と、はっとりが明かしていた。
はっとり「こんなに味方がいるのに、なぜか俺から生まれてくる曲はひとりぼっちなんです。芸術って、そういう恥ずかしい部分を隠そうと思っても、つい出てきちゃうものだと思っていて。僕はこんな惨めな人間であることを知られたくない。寂しいとか孤独を感じていることを悟られたくなくて、明るく振る舞っているけど、歌を書いたら出てきちゃいます。だから俺は、マカロニえんぴつの歌が大好きなんです。自分よりも正直だから。この歌がまた、“お前はいてもいいんだ”って教えてくれたし、この素晴らしいバンドが“俺たちもついてくよ”って、一緒に作ってくれました。あなたが受け取って、完成させてください」
「静かな海」は、軽快ながらも芯のあるバンドサウンドと、それに乗せられた切なげなメロディが胸に染み渡るミディアムナンバー。場内のLEDビジョンには歌詞が映し出されていたのだが──曲を披露する前、はっとりはこんな話もしていた。
はっとり「ひとりでいることを恥ずかしがっちゃダメです。自分を愛せない奴は誰も愛せないから。孤独を愛せない人、孤独を握りしめられない人は、孤独を握り潰すこともできない。いいかい? 一緒にこっそり、寂しく、強がって、これからも生きていきましょう!」
2日間で55,000人を動員した、バンド史上最大規模の会場での2デイズワンマンライヴ。とても華々しくて、それが大成功に終わったことは素晴らしいことでもある。しかし、数や規模の話ではなく、マカロニえんぴつは、自分たちの曲を聴いている一人一人に目掛けて、汗をかき、音を鳴らし、歌を届けている。そんな彼らの根幹を改めて感じさせられる曲で、2日間の祝宴は幕を下ろしたのだった。
マカロニえんぴつは、8月からファンクラブ限定ツアー『マカロックツアーvol.20 ~むしろウチらが追っかける!愛を掴んでホールドオン篇~』を、来年1月からはホールツアー『マカロックツアーvol.21 ~心を覗いてシラけるより、ことばのシワだけ増やしてゆけ篇~』を開催。他にも楽しみな企画が控えているが、これからも彼らは、孤独と涙に寄り添う音楽を紡ぎ、その音楽を求めるリスナーと歳を重ねていくのだろう。そんな美しい未来がありありと目に浮かぶ夜だった。
[SET LIST]
01. トリコになれ
02. 鳴らせ
03. レモンパイ
04. 洗濯機と君とラヂオ
05. MUSIC
06. たましいの居場所
07. 恋人ごっこ
08. ブルーベリー・ナイツ
09. なんでもないよ、
10. ハッピーエンドへの期待は
11. ルート16
12. はしりがき
13. mother
14. 僕らは夢の中
15. 前世よ、しっかり
16. ハートロッカー
17. ワンドリンク別
18. 愛の波
19. STAY with ME
20. 星が泳ぐ
21. ミスター・ブルースカイ
22. ヤングアダルト
23. 静かな海
『マカロックツアーvol.20 ~むしろウチらが追っかける!愛を掴んでホールドオン篇~』
2025年8月31日(日)北海道・Zepp Sapporo
2025年9月8日(月)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年9月9日(火)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年9月11日(木)福岡・Zepp Fukuoka
2025年9月16日(火)愛知・Zepp Nagoya
2025年9月17日(水)愛知・Zepp Nagoya
2025年9月24日(水)東京・Zepp DiverCity
2025年9月25日(木)東京・Zepp DiverCity
https://macaroniempitsu.com/live
マカロニえんぴつ
神奈川県発4人組ロックバンド。’12年結成。’17年9月より現体制での活動をスタート。’20年11月、メジャー1st EP『愛を知らずに魔法は使えない』を発表。’25年3月、メジャー5th EP『いま抱きしめる 足りないだけを』をリリースした。現在、FCツアー『マカロックツアー vol.20 ~むしろウチらが追っかける!愛を掴んでホールドオン篇~』を開催中。
公式サイト
https://macaroniempitsu.com/
01. 静かな海
https://tf.lnk.to/macaroni_Shizukana_Umi