今年メジャーデビュー15周年を迎えたバンドSPYAIRのギタリストであり、メインコンポーザーでもあるUZがソロアルバムを発表した。3年にも及ぶ制作期間を経て届けられた『STATE OF RHYMES』は、UZのこれまでの音楽的探求を結実させた全10曲を収録。ここでは前後編の2回に分けて、楽曲へ込めた想いと制作過程について、1曲ずつ本人に解説してもらった。
新しいものへの好奇心に、純粋に自身を委ねたくて
■ソロアルバムが完成しましたね。
「ついに、ですね!」
■中学生の頃からソロ活動への憧れがあったとうかがっていましたが、具体的に動き始めてから3年ほど時間をかけた制作になりました。
「バンドをやりながら並行してずっと向き合ってきましたし、特に製作期間の最後のほうはマジで解放されたいと思うほど(笑)、追い込まれていたんです。というのも自分は今40歳(本作リリース後の12月13日、41歳に)で、人生のターニングポイントと捉えているから、この年齢のうちにソロ名義のアルバムを形にしたかったんです。だから、完成させたら解放された気持ちになるのかな、とか思っていたんですが、いざ終わってみると、そこに特別大きな感動とか、よくやったぜ俺、みたいな瞬間があったわけじゃなく。満足感はもちろん湧いてきたし、愛おしいものでもあるんですが、マスタリングの帰りには新しい曲を作っていました。鼻歌を録音してね(笑)」
■今を出し切って記念碑としてのアルバムはできたけれど、UZさんの音楽家人生のゴールではないんでしょうね。
「そうなんです、次を見ているし、むしろやっとスタートラインに立てたというか。これまでは、自分にとってソロも大切なものでありながら、バンドの傍らにやっているプロジェクトといった見られ方もあった気がするんですね。でも、アルバム作品を形にして、いちアーティストとして進むことができたと思えています」
■1枚の作品としてアルバム全体のデザインというか、こういう音楽的なピースが必要とか全体像を見ながら進めてきたんですよね。
「今の時代、曲単体で聴かれる方も多いですけど、自分はアルバムを聴いて育ってきたし、1枚のアルバムとして作品性のある音楽に魅力を感じてきたから。そういうものでありたかったんです。そこで、まず全体像を頭に浮かべて、1曲ずつのピース──だいたい4小節あれば曲の雰囲気がわかるから、そういったものを作って。アルバム像を捉えてから曲を膨らませていきました」
■『STATE OF RHYMES』に収録されたのは10曲。各曲、ラップセクションとメロディで構成されていて、トラックはループミュージックの流れにあります。そういった今惹かれている音楽、そしてルーツと、この先に見ている音楽という音楽探究の旅、約3年のアルバム制作の時間の旅、もっと言うと、どういう価値観を持って歩んでおられるかといった人生の旅も感じました。
「アルバムは“旅”がテーマになっているんです。そこにはいろんな景色が広がっていて、いろんな感情になって、最後に目的地へ辿り着く。そういう作品を自分自身が聴きたかったんです」
■その旅に駆り立てる根っこにはもちろん初期衝動も残っているんだろうけど、なにより、もっと知りたい、もっと新しい景色を見たい、こんな音楽を自分が鳴らしてみたらどうなるんだろうといった好奇心がある気がしました。
「新たな景色を見たいんです。せっかくソロで自由に羽ばたける環境があるわけだから。新しいものへの好奇心に、純粋に自身を委ねたくて。そういう時が一番楽しさを感じるんですよ。クリエイティブな面での好奇心は自分の中に常にあるし、この灯火みたいなものが消えたらそれこそ音楽を辞める時なのかな、っていうくらい大切なものです」
■その灯火があるから進めるし、完璧を求めて苦しむし、っていう。
「間違いないです(笑)」
■そんなアルバムを、前半・後半の2回に渡ってライナーノーツ的に1曲ずつ読み解いてもらいたいと思います。
ここから俺は行くぞ、旅に出るぞ、という気持ち
01. State Of Rhymes
■1曲目は「State Of Rhymes」。2025年1月1日にこの曲の仮ミックスをSNSに投稿されましたね。
「2025年はソロも動くことを示したくて1月1日に上げたんです。あと、リフのワンループで16小節ラップする楽曲がSPYAIRを聴いてくれている人にどんなふうに響くのか知りたかったし、こういう音楽を作っているから耳慣らしをしていただきたいという想いもありました」
■その曲が完成して、アルバム冒頭で聴くと、ここから攻勢に出ることが伝わってきます。
「旅のスタートを意識した楽曲で、ものごとの始まりにはワクワクだけじゃなく不安だったり、恐怖だったり、挑戦心だったり、いろんな気持ちが入り交じりますよね。そういうものを含め、ここから俺は行くぞ、旅に出るぞ、という気持ちを曲にしたかったんです」
■ミドルテンポあたりで、短音のループの緊迫感が印象的ですね。
「ドハマりしたヒップホップに、Nasの“N.Y. State of Mind”があって。この曲が単音のループが鳴っていて、緊張感があるんです。自分の中で旅の始まりのイメージはヒリヒリ感が強いのと、“N.Y. State of Mind”が自身の血肉になるくらい刷り込まれていることもあって。自分なりの単音のループを作ってから、ここにどう音を掛け合わせていこうって考えたんですね。そこで俺のルーツにある、ヘヴィーなディストーションギターを弾いて。やっぱりこういうギターのリフって血が騒ぐし、そういうのをアルバムの最初に持ってきたかったんです。さらに、ちょっと奇妙な、SPYAIRではやらないコードのピアノを鳴らしました」
■たしかに、ピアノのコード感は新鮮でした。あと、間奏のリズムチェンジとかBメロ前のサックスや女性ヴォーカルを入れて、ループミュージックの中にスパイスを混ぜるところがセンスフルで。オリジナリティを感じます。
「そこはロック出身だから。ワンループで曲を作ることもできるんですけど、転調感があってサビに向かう感じって欲しいんですよね、感覚的に。だから短いBメロをつけて、ここで絶妙に転調しているんです。あと、現代、2010年代のジャズを最近よく聴いていて、ああいうスケールに沿ったサックスを入れることで、ドキっとするんですよね」
■そんなサウンドの上に乗るリリックは、冒頭が〈State of rhymes書き込むTitle〉。このフレーズからも始まりを感じます。
「ソロプロジェクト自体に、“State of rhymes”というテーマみたいなものが2019年の頃からあって。この言葉を書き込んだ瞬間からソロが始まったんです。それを冒頭に持ってきたかったんですよ」
■ソロ第1弾として発表された「Take My Wish」にも“State of rhymes”のフレーズが出てきますよね。そして、好奇心を燃料に進んでいることと、ギタリストがなぜラップするのかに触れています。
「1曲目の宣誓だし、今の自分の等身大で、言いたいことを綴っただけなんですけどね(笑)。なんでラップするの?とかさんざん言われ続けてきて、それも自分の糧になっているから、歌詞に入れてみました。俺はこうだぜ、みたいなことってラップをするのには大切だったりするんですよね」
■「なぜラップするのか?」のアンサーとして、〈一度の人生やりたい事やるだけ〉とあります。この一度切りの人生、の考え方はアルバム全体に流れている気がするし、UZさんの生きる指針というか、根っこにある信条のひとつなのかな、と。
「日常を生きている中でもそれはあるかもしれないです。経験したことない景色を観たいとか、躊躇していつもの枠に収まるよりどうせ一回切りなんだから多くのことをやっておこうぜ、っていう考えが根本にはありますね」
価値観はそれぞれだから正解はなくって、感じたままでいいんだよ
02. One More City
■ “One More City”はミドルテンポの1曲。サックスのループが印象的でかつ軽快なノリを生んでいます。
「この曲はニューヨークを舞台にしていて、街を颯爽と歩いている風景を形にしました。L.A.ともまったく違う独特な街で刺激的ですし、アーバンな香りがするんですよ。その空気感と、どんどん次の街に進んでいこう、という想いを核に置いて作っていった曲です」
■都会的で洗練された空気感もループするサックスのフレーズが感じさせてくれますね。
「単純にサックスの音が好きというのもあります」
■それはアルバムを通して感じました。要所要所でサックスの音色が使われていて。
「俺、中学生の時にアルトサックスを吹いていたんですよ」
■そうなんですね!
「中学1年の時バレーボール部で、中学2年から吹奏楽部だったんです。それもあるのかサックスの音、特にソロを聴くとテンションが上がって。今回のアルバムのトラックに結構、採り入れています。で、“One More City”のトラックに話を戻すと、サビの音の積み方にこだわりました。音を分厚くしないところでサビ感を作りたくて。いろいろやってみた中で、わりと隙間があるのに、ちゃんとサビっぽくできました。そこは難しくもあり、楽しかったです」
■リリックはおっしゃった通り、ニューヨークの街を歩いている景色ですね。
「純粋に旅というテーマに沿っていて。初めての土地とかで、景色を感じながら歩いているだけで楽しい、といったものをリリックとして落とし込めた気がします」
■朝から始まっていく歌詞で、そこにフレッシュさがあり、さらに全体から予定調和、既存の形、ボーダーラインに縛られない軽やかさみたいなものを感じます。
「よく知らない土地とか国ってひとりで歩くことすら怖いですよね。実際に、夜中とか危なかったりして、安心安全ではないわけで。それでもこの道の先になにがあるかわからないから行ってみるところにドキドキ感があるし、一歩踏み込むことによって今まで感じたことがない感情だったり、景色に出会えたりする。さっきお話ししたように、人生一度切りだからいろんなものを経験しようと踏み出す、という考えが自分の軸にあるから。それを旅の中でさぁこっちに行ってみようということを描いてみました」
■街を進んでいるうちに見えてきた無数のストリートアートに対して、〈これこそが最上のアート 誰かにとってはバイオハザード〉と言っていて。
「価値観はそれぞれだから正解はなくって、感じたままでいいんだよ、俺はこう感じるみたいなところですね」
■あと、〈移り変わるブルースも気ままに踊るよ〉とか、1曲目がヒリヒリしていたのに対して、言葉に楽しさがある気がしました。
「トラックの雰囲気に触発されたところもありますし、それに真面目なだけのラップをしていると、アルバム1枚を聴く中で窮屈に感じる気がして。そこで、ユーモアというか、クスっと笑える言葉とか、僕の中ではすべてに意味があるんだけど人によって意味がわからないだろう言葉を混ぜたり。それくらい力を抜いて描いていますね」
■程よく力を抜いた言葉で〈この一瞬を豊かにするには 少し前へ飛び出す勇気と 奏でる口笛さ〉はキラーフレーズです。
「気に入っているフレーズです。まさにこの言葉が“One More City”を象徴していますよ」
表現として個人的でいい、歌いたいことを歌えばいい
03. Fly Higher
■3曲目に2025年6月にデジタルシングルとして発表された「Fly Higher」が来ます。
「“One More City“で歩き出して、アッパーな“Fly Higher”でさらに激しく行こうぜ、という位置づけです」
■スピーディな中に新しい一面が出ていて、リリースされた当時驚いた記憶があります。そのひとつがイントロから鳴る流麗なピアノフレーズだったりしました。
「ああいうピアノは初ですね。“Fly Higher”はアレンジだけじゃなく曲の根本、それこそコードの響きから全然異質で、コード進行の中に、自分が音楽を聴く上で好む毒みたいな部分を入れているんです。それってSPYAIRであまり出してこなかったところでもありますね」
■それに歌詞は〈増えるScreen timeと肩こり〉とあるように、スマートフォンに依存するこの社会を描き、自分を縛るものから飛び立とう、“No pain, no gain “、痛みなくして得るものはないところへ行き着いています。
「この気持ちを言葉で伝えたいという衝動が湧いたんです。想いとかリリックを書くことに対して自分を押し殺してる感覚がこの曲を書く前まではあったんですね。でもラップを聴くほどに、自分でやるほどに表現として個人的でいい、歌いたいことを歌えばいいと思えて。そういう解放ができたキッカケになった楽曲なんですよ。それはラップ文化へのリスペクトとして、16小節続くラップを説得力を持って響かせるためにも必要でした。しかも、“Fly Higher”はひとつテーマが明確にあったから、そこに対して直球に書いていったというのもあります」
■〈求め合う“誰か”との共鳴 口先だけの存在証明 そろそろ終わらせに来たんだ 自分自身で決めたアンサー〉のラインはグッときました。
「俺の本質が表れているんでしょうね。この言った者勝ちの世の中とか嫌いなんですよね、ずっと(笑)」
音楽の女神に手紙を書く。一緒に曲を作らせてくれよ、って
04. Muse
■「Muse」はクリーントーンの美しいギターフレーズがループする楽曲です。
「SPYAIRで言うと『MILLION』がわかりやすくて。“現状ディストラクション”の後に“サクラミツツキ”が来るといった流れが自分は好きなんですね。だから、“Fly Higher”で勢いと熱を生んだ後に、エモさが欲しいっていうところで、綺麗なアルペジオでかつ踊れることを目指して書いた曲です。そもそも “Muse”のサビのメロディとギターのアルペジオフレーズは結構前に作っていて。Kendrick Lamarのアルバム『To Pimp a Butterfly』は硬派で少しジャジーで大好きな作品なんですけど、ここに美し目のアルペジオが入っている曲があるんですね。それを聴いてこういうのいいな、と思ったのがインスピレーションの源流になっています」
■踊れる、とおっしゃったようにサビはライヴのピースな景色が見えるようです。
「サビは、例えばギターはカッティングだけなんですよね。 “Soloist”もサビの音が薄いんですけどメローだからいけるんです。でも“Muse”のようなノリがある曲で、カッティングギターでサビ感を出すにはどうしたらいいんだろう?という、やったことがなかったアプローチに挑戦して。思っている以上にサビ感出ているなと後々思えました」
■音で空間を埋めないことで抜け感が出ていますね。
「そうなんです。あと、鳴っている音がハッキリわかるだろうし。楽しんでもらえるかな、って。作っていても面白かったです」
■逆にDメロはディストーションギターが鳴っていて、直後の落ちサビをピアノのコードを軸に構成する。このコントラストも楽しかったです。
「1曲通してオシャレにしてもよかったんですが、Dメロを入れたのは、ロックバンド出身のサガとして音の壁を作りたいという衝動からなんですよね(笑)。それが他にない曲になってくれました」
■そして、リリックの軸になっているのは作詞作曲の時間。それをロマンチックに描いたのが素敵です。
「テーマにあったのが音楽の女神に手紙を書く。そういう曲を作りたいとずっと思っていたんです。今回、描きながら、こういうの面白いな、こういう表現ありだな、ってところで、新しいことをやってみました」
■クリエイターやアーティストさんが言うアイデアの閃き、振ってくる感覚を“セレモニー”と表現していたり。
「一緒に作らせてくれよ、お前がいないと駄目なんだ、とかサビは特にあえてロマンチックな言葉を使っているんです。これは、作曲であったりクリエイティブなところをテーマにしたからこそできた表現ですね」
■洗練されたトラックだから、例えば〈手を繋ぎ離さないよTonight〉といったフレーズも馴染んでいて自然と響いてきますね。
「トラックの浮遊感や宇宙感にこういう言葉がマッチする、という想いもありました」
■〈積み重ねた結晶の欠片〉といったフレーズは、SPYAIRを含めこれまで100曲以上世に出してきたUZさんだからこその言葉だと思いました。
「日々の努力があるからこそ、自分の想像を越えたアイデアが降ってくると思いたいし、実際、そうだと信じているから。2番のバースは、経験談を書いていきました」
■今回、作詞、作編曲、演奏、プログラミングといったミュージシャンとしてだけではなく、マスタリング以外のエンジニアの役割もUZさんがされていますよね。そのアルバムのこの曲に〈更にチームで奇跡生まれる〉のフレーズがあるのもいいですね。
「音楽の女神とのチームでもあるし、バンドもそう。自分ひとりで作ることも好きだし、大切なんだけど、逆に誰かと手をとることでよりすごいものが生まれることもあるよ、といった想いをこの言葉に込めています」
〈Traveling without moving〉日常から移動しなくても旅になる
05. Soloist
■「Soloist」は2025年8月にデジタルシングルとして発表された楽曲。ミディアムスローあたりのテンポ感で、ネオソウルとかに通ずる洗練された大人びた雰囲気が漂っていて。この曲でアルバムが深まっていきます。
「今年に入って都会的な音楽をよく聴いていたんです。そういったものを自分の楽曲として表現したいと思えたし、表現しても違和感のない年齢だな、と。コーヒーを飲みながらゆっくり聴けるような曲をイメージして作りました。アルバム前半戦の終わりというか。一度肩の力を抜くポイントとして、メローな曲を挟みたくて、構想の時から“Soloist”はここに置いていました。結果的にこのアルバムの流れで聴くとうまく溶け込んでいますよね」
■本当にそうですね。
「アルバムとしてフレーバーに統一感を持たせたくて。“Soloist”もその中にあるんです」
■改めて曲に触れると、サビ始まりで、そのサビをすべてファルセットで歌われています。このサビの歌とベースフレーズにも色気がありますね。
「曲の雰囲気に合わせてサビはファルセットでアプローチしました。トラックに関しては、一つひとつの音がニュアンスの細部まで聴こえるように音数を少なくして作っていったんですよ。サビはピアノのフレーズとかで表現できたら、と思ったんですが専門外ですし。今持っている知識で成り立たせました」
■洗練された統一感の中で、大人っぽさと心地いいチルさがいいバランスで成り立っていますね。そして歌詞が個人的な世界で。
「本当にパーソナルです(笑)。日常に決まり切ったルーティンみたいなものって一人ひとりにありますよね。そういう日々のルーティンもひとつ角度を変えれば旅になる。旅している時間のように日常を大切にしよう、いい音楽をかけて過ごそうというのがテーマ。サビで描いたフレーズの〈Traveling without moving〉は動かなくても旅になるっていう意味なんです」
■例えば音楽を聴くことで脳裏に浮かぶいろんな景色を巡ったり、日常にいて想像の中で心が旅をするような。
「そうです。だから1番で自分のリアルな朝の始まり、2番で仕事終わりを描いていて。こういう時間も素敵だよね、って言いたかったんです」
■そのリリックの中でギターやバイクだったり、ご自身がお持ちで愛着のある物の名前が入り込むことでよりプライベート感が出た気がします。
「パーソナルな固有名詞をガンガン歌詞に入れていくのはラップでよくやる手法で、他のアーティストの曲を聴いていても楽しいんです。たとえその物自体を知らなくてもね。だから、このリリックをキッカケに、“〈Grass tracker〉ってなんだろう? ああ、バイクの名前なんだ”とか、気づきのキッカケになることもあるだろうし、聴き流してもらってもいい。そういうスタンスでいいのかなって、あえて固有名詞を入れている面もあります」
■固有名詞、特に自分が好きなものの名で韻を踏んでいくカッコよさもありますよね!
「そうそう! 〈Grass tracker〉と〈向かうサウナ〉の韻を思いついた時は自分でもやべぇな!ってなりました(笑)」
■たしかに、聴いていてすげぇ!ってなりました(笑)。〈サウナ〉がそうですし、〈旋律〉と〈色鉛筆〉とかカッコつけてない言葉で韻を踏んでいたり。
「歌詞で〈サウナ〉ってあまり見ないですよね(笑)。“Soloist”を作ったのは2025年の年始めあたりで。このリリックを書いたことによって、より自分を縛るものが外れたし、ここまでやっていいんだな、みたいな感覚が得られて。ある程度できた他の曲の歌詞を“Soloist”を完成させた後に書き直したりしたんですよ。それくらい、もっと自由にもっと遊び心を効かせようとなれた曲です」
■その自由とか新しさを感じるひとつが「Soloist」のラストサビのコーラスのアプローチです。
「このあたりはジャンルへのリスペクトでもあります。ネオソウルとか'90年代のR&Bってオケを分厚くすることってあんまりないですよね。基本的にワンループの中で、起承転結がついていて、1曲を魅力的なまま聴かせている。その中でコーラスを重ねるのが、厚みを出すためにできる技法なんです。ロックではリズムを変化させるとか転調で盛り上がりを作るところを、ネオソウルや当時のR&Bは主旋律のヴォーカルから、フェイクが主役に切り変わったりといったコーラスワークでやっていて、カッコいいんですよ。それを自分なりに挑戦してみました。頭で考えて作るハーモニーではなく、録りながら感覚でやっていく感じで。生感があって楽しかったです。そうやってトライしながらまだまだ研究している段階ですね」
■ソロの楽曲はコンポーザーとしてメジャーで15年やってきたUZさんが、未知の音楽を掘り下げて知っていく、その喜びが入っている気がします。
「それこそソロをやる意味です。SPYAIRで発表した“オレンジ”が俺たちの想像を越えて世の中に広まった後、1度立ち止まって“ソロでなにがやりたかったんだっけ?”と向き合い直したんです。その時に、自分の中にある音楽を広げるために、探るためにソロはやるべきたなと思えて。改めて、こういった音楽的研究は楽しいですね。やっぱり今まで作ったことがないジャンルの音楽って実際にやってみると、聴いているだけじゃわからないことがたくさんあって。制作しながら、こうなるんだ!という発見があるんです」
■そういった感覚を今持てるっていいですね。
「まだまだ音楽に煌めきがあるんですよね。作曲とかアレンジの経験を重ねるとリスナーとして自分がやっているのと同じジャンルのものを聴いた時、“ああこうね、知ってる”みたいなふうになってきがちなんです。それがまったく違う音楽を作ろうとすると、こういうものなんだ!っていう新鮮な発見があるし、心が柔らかくなったり、音楽に謙虚になれたりして、もっと知りたいと思えるんですよ」
UZ
ユージ。'05年に結成されたバンドSPYAIRのギタリスト。これまでSPYAIRの楽曲を100曲以上制作するなどバンドのメインコンポーザーとして活躍中。'23年デジタルシングル「Take My Wish」でソロデビュー。'25年6月「Fly Higher」、8月「Soloist」をリリース。'25年12月に待望のソロデビューアルバム『State Of Rhymes』を発表した。
公式サイト
https://www.spyair.net/uz/