山本彩から、自身初となるEP『U TA CARTE(ウタカルト)』が到着。フランス語で“お客さんが自由に選んで注文できる一品料理”を意味する“アラカルト”から着想し、影響を受けたルーツミュージックや、参加したレコーディングメンバーなど、多様な音楽性が集まり完成した今作。彼女のさまざまな魅力が楽しめる、味わい深い1枚について聞いた。また、ここでは撮り下ろし写真のアザーカットも公開!
Text 山本祥子 Photo 下田直樹
Hair&Make-up Chim Styling 柏木作夢
実感のこもった熱い想いが伝わる曲になればいいな
■前回のインタビューで初のアジアツアーについて話を伺って。秋には初のアコースティックツアーがあり、そして現在は初の対バンツアーの初日を終えたばかりという。
「今年は初尽くしな1年になりましたね。ただ対バンライヴも、アジアツアーも、数年前から企てていたことではあって、形にできたのがたまたま全部2024年だったという感じで。けど実現できてすごくよかったです」
■アジアツアーの手応えからお願いします。
「バンドメンバーと廻れたというのが、まずメンタル的に大きくて。ずっと前から掲げていた夢ではあったんですけど、いい意味でそんなに気負う感じもなく。海外で応援してくださる方の存在は昔から知っていたから、ようやく会いに行ける喜びだったり、純粋にライヴがアジアでできる嬉しさだったり、そういうことのほうが圧倒的に強かったですね」
■だからというか、ライヴはバンド編成の印象が強かったので、弓木英梨乃さんと廻るアコースティックツアーは新鮮に感じて。
「私もです。これまで作り上げてきたこととまったく違うというか。MCを含めて、山本彩のライヴは私1人じゃなく、バンドメンバーと築いてきた実感があったので。初めましての編成だし、初めましての人だし、しかも決まってから本番までがスピーディーで、リハーサルも2回しかできなかったし、最初は本気で大丈夫かな?って。まさか弓木さんとこんなにも息が合うと思わなかったから。技術面でめちゃくちゃ引っ張ってくれましたし、人柄もとっても素敵で。日々、刺激をもらいつつ、楽しくやらせてもらいました」
■こちらの手応えも伺いたいところでしたが、EPのボーナストラック「あいまって。(Acoustic ver.)」を聴いたらね。
「はい(笑)。これきりにするのは本当にもったいないので、今後とも何かとよろしくお願いしたいなと思っている所存です」
■さらに対バンツアーの3会場3様のゴリゴリのメンツを見て、今年はとにかくファイティングポーズなんだなと。
「あははははは。阿部真央さんは女性シンガーソングライターだし、アコギで掻き鳴らすロックスタイルだったり、リンクする部分もあるなっていうふうに感じていたんです。それでも最初は、まぁ空気は固かった、はっきり言うと。そこを阿部さんがほぐして温めてくださったおかげで、最終的に会場全体が美しく混ざり合ったんですけど。次回以降、そうできるかなーみたいな。いや、やるしかないんですけどね!」(取材は11月下旬)
■しかし2024年はまだ終わりません。クリスマスプレゼントと言うべきEP『U TA CARTE』が到着しました。
「11月に“Seagull”を出しましたけど、上半期の連続リリースから少し時間も空いたし、来年に向けてしっかりと作品を残して終えたいという気持ちがあったので。タイアップの付いた“Seagull”以外は割と出来立てほやほや、鮮度が高い曲で、ライヴと並行して制作していましたね」
■ライヴと並行させてでも残したい作品とは、どういうものだったのでしょう?
「最初はサウンド面だったり、テーマだったり、がっつりと統一感のあるEPにしようと思ってたんです。でも、プリプロでデモを作っていくうちに、1曲できると、次は違うアプローチを試してみたい気分になってしまって(笑)。結果、アラカルトがモチーフの作品になりました」
■今までのアルバムもバラエティ豊かだったし、3ヵ月連続リリースも出る度に、こう来たか!って唸らせられる経験を重ねてきて。もはやそれも含めて山本彩だなっていう、妙な説得力になっている気がします。
「日めくりカレンダー的な感じで、自分もやっぱり違うことしたくなっちゃうし。よくも悪くも影響を受けやすいから、なんかいいなって感じたひらめきや衝撃は、そのまま次の曲に活かしたくなるし。そういうところが直接作品に表われているのかもしれないです」
■なので、相変わらず内容は濃いんだけども、不思議と肩の力が抜けた感がある。
「特にチームSYでやった“KIRAKUモンスター”や“カフェモカ”は、“このフレーズの言い回しで迷ってるんですけど、どっちがいいですか?”とか、歌詞の面でも相談しながらできたので。自分を追い詰めることなく進められたのは、すごく助かったなって。だから、よくないかもしれないけど、締め切りは結構近いのに、完成には遠い段階でも、あんまり焦ってなかったというか(笑)。最終的には書けるだろう、みたいな」
■まさにKIRAKUモンスター!
「本当に(笑)。多分周りの方は、まだかまだかと首を長くされてたと思うんですけど、そこで自分が焦る/焦らないで変わってくるから。いい歌詞を書こうとか、書きたい想いを書こうより、間に合わせなくちゃ!にゴールがブレてしまうとよくないので。昔は断然後者で、むしろ間に合わないことも多かったし。ちょっと達観した視点も、余裕に繋がったのかなっていうふうに思います」
■1曲目の「木天蓼」はタイアップ云々じゃなくて、まっさらの新曲でしょうか?
「はい。こういう歌が書きたかったんです」
■メロディも歌詞も超ドラマチックだから、資料に書いてないだけで、実は何かあるのか!?って疑ってました。
「いやいやいや、何もないです(笑)。最初のイメージは猫ちゃんだったんですけど。私は犬を飼っていて、犬を長く留守番させて帰った時に、多少の後ろめたさ、申し訳なさ、あとは他のワンちゃんと触れ合った時には罪悪感、そういうものに苛まれるわけです。じゃあ動物側はどう思ってるんだろう?って。犬は若干リアクションが変わっても、すごい嬉しそうにしてくれるけど、猫ちゃんはそうではないんだろうな。わかりやすく嫉妬する子がいれば、怒る子もいたり、人間の恋愛模様になんかリンクする気がするぞ。これを人間の恋愛に比喩して書けたらドキッとするような歌になるんじゃないかな?って」
■その発想、めちゃめちゃ面白いですね。阿部真央さんのインタビューでたまに話題に出るんですけど。確かにキラキラした恋の歌は可愛いけども、日本のアーティスト、特に女性は、年相応というか、大人のラブソングを歌う人が少ないよねって。
「うんうん。阿部真央さんは年々深みが増している感じがしますもんね」
■というわけで、今の山本彩が歌ってぴったり来るラブソング来た!って思いました。
「無理に背伸びする必要もなく、書きたいと思う物語が自然に書けたから、まさにそういうことなんだと思う。それができたのも、自分が書いた恋愛ソングの中には、今歌うのは照れるなって思う曲がやっぱりあって。自分なりにちゃんとアップデートしていかないと、どれも恥ずかしくて歌えないみたいなことになっていくので。もしかしたらこの曲も、5年後には恥ずかしく感じるかもしれないけど、これも歴史だし。うん、今の自分の恋愛の歌が書けたなって思います」
■文字で読むと、〈じっくり愛撫して〉なんて超ドキッとするフレーズだけど、音楽として聴くと恐ろしくカッコよくて。
「視覚的、聴覚的に“なんかエロいな”とかって単純に捉えられると、この曲の良さというか、私が感じてほしいところまでは届いてないかなぁと思うので。そういうふうに聴いてもらえるとすっごく嬉しいです」
■〈愛撫〉の“あ”の絶妙にハスキーな発声だったり。ちょっとしたことですが、そこに情熱と冷淡さを同時に感じて。サウンドはガシッとしてるけど、ヴォーカルはかなり繊細に作られているから。
「ありがとうございます。まさしく言っていただいた〈愛撫〉は自然とこういう歌い方をしたくなったし、この曲の大事なポイントになるなと思ってそのまま活かしたので。あとは別のフレーズの“あ”も、これまではあえて子音っぽく歌って、歌詞を強調するアプローチが多かったんです。でも“木天蓼”では母音になる50音もしっかり歌うことで、主人公の感情をより深く表現できるかなって考えながらレコーディングに臨みました」
■「木天蓼」を1曲目に置いた時点で、山本彩の本気、受け取りました。
「はい。ちょっとザワつかせたいなっていう想いはあります(ニッコリ)」
■ラストの〈捕まえたのなら 最後の最後には責任取ってちょうだい〉というフレーズは、ザワつくどころか震え上がると思う。
「フフフ。だとしたら狙い通りです。私はこれ、結構怖がらせるつもりで書いてます」
■でも一番震え上がったのは、この次に「カフェモカ」があること。
「あははは。なかなかの温度差ですよね」
■温度差プラス、ラブソングは苦手と公言していた山本彩から、こんなに高純度のラブソングが届くとは!
「なんだろうな、別に自分として書かなくてもいいんだよなーと思ったんですよね。そしたら自分が悩んで書いてるとかではないから、断然面白くなって。こういうシチュエーションに、こんな登場人物がいて、2人をどう動かしていくかっていう、作家的な楽しみ方をしながら作った曲だったので。ラブソングに苦手意識があるからこそ、克服というか、自分なりの書き方をやっと見つけられたのかな」
続きはBACKSTAGE PASS 2025年2月号でお楽しみください!!
『ライブナタリー “山本彩 × ポルカドットスティングレイ”』
2025年4月19日(土)東京都 Spotify O-EAST
16:30開場/17:30開演
https://live.natalie.mu/event/syps
山本彩
やまもとさやか。’93年7月14日生まれ、大阪府出身。’10年のNMB48発足よりグループの中心メンバーとして活動し、’18年11月にグループを卒業。’16年10月に1stアルバム『Rainbow』でソロデビュー。’23年5月に4thアルバム『&』を発表。’24年12月、EP『U TA CARTE』をリリースした。
公式サイト
https://yamamotosayaka.jp/
通常盤 CD ¥2,200
01. 木天蓼
02. カフェモカ
03. KIRAKUモンスター
04. Seagull
〈Bonus Track〉
05. あいまって。(Acoustic ver.)
https://sayakayamamoto.lnk.to/UTACARTE