素直に“会いたい”と口にできない女の子の胸の内と、そんな女の子を幸せにしようとする男の子の心の呟き。少ない音の重なりと淡く温かな声で紡がれるスローバラード「37.2度」が届けられた。これまでにないアプローチから生み落とされた、透明な恋の物語をゆっくりご堪能あれ。
Text 吉田可奈 Photo 新井裕加
Hair&Make-up 中島愛貴(GLEAM) Styling 市川マーカス知利(JUSMA)
■杉本さんのこれまでの楽曲を聴いていると、ご自身の中で作りたい楽曲のイメージがすごくしっかりされているのかなと感じました。いつもどのように制作しているのでしょうか?
「ありがとうございます。そう思っていただけるのはすごく嬉しいんですが、実は僕の中で、一貫して“絶対にこういう世界観の曲が作りたい”という意志がしっかりと形成されているわけではないんですよ。それよりも、僕が得意なのは1曲ずつの世界観を作り上げていくことで。いろんなことに興味を持っているので、常に柔軟でいるように気をつけています。もちろん好きなアーティストさんはいますし、好きなサウンド、ジャンルはありますけど、ジャンルレスに曲によって自由に行き来できることが自分の強みだと思っています」
■ニューシングル「37.2度」ではどんな世界観を作り上げていきましたか?
「今回のシングルをリリースすることが決まった時、まずはタイトルから作ろうという案が出たんです」
■それはなぜでしょう?
「以前リリースした“おにぎり”でとても多くの反響をいただいて。それって、“おにぎり”という言葉のインパクトが強かったのも関係していると思っていて。それを踏まえて、今回はその曲を象徴する言葉を考えてから作ろうと、スタッフさんと一緒に会議をするところから始めました」
■なるほど。ちなみに「37.2度」は“微熱(びねつ)”と読むんですよね。
「そうなんです。その言葉が会議に出てきた時にすごく印象的で頭に残ったので、“これだ!と思いました」
■その「微熱」という言葉からイメージを広げて曲を作っていった?
「はい。その会議ではいろんな言葉が出たんですが、その言葉に合うサビのデモ音源を作っていったんです。それをスタッフさんにコンペのような感じで聴いてもらって、曲を選んでいきました」
■それだと、すごい量の曲を作ったのではないですか?
「本当にこれまでにないくらい曲を作りました。でも世界観がしっかりとある言葉の中から、イメージを広げて作っていったので、すごく面白い作業でした」
■そういった作り方は初めてですか?
「はい。初めての挑戦だったのですごく新鮮でした。僕は、曲って時間をかけるからこそいい物が生まれるとは思っていなくて。すごくいいスピード感でこの曲ができたのはよかったですね」
■「微熱」の設定が「37.2度」というのもいいですね。
「でも、タイトルが発表された時、ファンの皆さんがザワついたんですよ。果たして37.2度は微熱なのか?と(笑)」
■アハハ、確かに人によりますね。
「まだ熱ではないよと言う人もいるし、微熱は37度後半からでは?という声も出ていて(笑)。そういった論争になっているのも、話題になるという意味ではいいなと思いました」
■とはいえ、そのキーワード1つから曲を作るとなると、想像力や、ストーリーテリングの能力が必要となってきますよね。
「そうですね。僕、TikTokで“熊本の彼氏”という投稿をしているんですけど、そのセリフも設定も、すべてゼロから考えているんです。それを2年ほど継続してできているのは、想像すること、妄想することが好きだからなんですよね」
■TikTokでの活動が、シンガーソングライターの活動にすごくいい影響を与えていたんですね。
「結果的にそうなりました。TikTokは、シチュエーションを思い浮かべて、会話も台本も作らず、そのまま即興で出てきたものを使っているんです。それをしていくうちに、作詞作曲をする時も、パッと情景が頭に広がって、それをそのまましっかりと曲や歌詞にすることができるようになって。いい相乗効果が出ているんじゃないかなと思います」
■杉本さんはお芝居もされていますが、そのアドリブ力は、かなりの武器になっているのではないでしょうか。
「そうだったら嬉しいですね。僕の中では、すごくナチュラルなことなので、それがお仕事に活かせていたらいいなと思います」
■大きな才能だと思いますよ。
「僕は才能だとは思っていないんですが、周りの人がそこを褒めてくださるんです。褒められたらそれはもちろん嬉しいことなので(笑)、これからもその想像力、アドリブ力を伸ばしていきたいと思っています」
■「37.2度」はしっかりと世界観が伝わってくるようなものになっていますが、特に〈ポカリとグミ〉という固有名詞が出てくることによって、一層リアルに響いてきました。そこはあえてのギミックですか?
「最初にサビを作った時は、登場する女の子が強がっている設定にしていたんです。“会いたいけど素直に言えないから、微熱があることにしてごまかしている”という設定で歌詞を書き始めて。歌詞で伝えたいこと、キャッチーさを意識しつつ、そういったロジックも使い、世界を広げていく作り方をしていきました。その〈ポカリとグミ〉は、女の子目線で歌詞を書いた時に、言葉の意味はもちろん、リズムを取る時の心地良さを考えていたら、辿り着いたもので。あと、破裂音や濁点のある強い言葉を選ぶことが多いんですけど、それもあって、“ポカリ”と“グミ”という単語がすごくフィットしたんですよね。女の子のキャラクターも連想しやすいかなと思ってこの言葉を選びました」
■余談なんですが、先日SNSで、可愛い子ほどグミが好きという投稿を見かけて(笑)。
「それは女の子のブランディングのような気がします(笑)。グミが好きって、なんか可愛いですよね。そう考えると、この曲の女の子も、好きな人に可愛い自分を見せたかったのかもしれないです。だって、微熱がある時に欲しいのは、グミではなく、絶対に風邪薬じゃな
いですか(笑)」
続きはBACKSTAGE PASS 2024年7月号でお楽しみください!!
杉本琢弥
すぎもとたくや。’94年7月8日生まれ、熊本県出身。’22年デビューのダンス&ヴォーカルグループ・BLACK IRISのメインヴォーカル。TikTokを中心に“熊本の彼氏”の名で人気を博し、’23年3月に1stシングル「おにぎり」でソロデビューを果たした。
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https://takuyasugimoto.com/
発売日:2024年5月27日
判型:A4判
頁数:128ページ
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